こんにちは、おぐりんです。以前、アスリートの方とお話しする機会があり、パフォーマンスについて深い学びがありました。話の中で強く印象に残ったのは、「ハイパフォーマンスを目指すのではなく、ローパフォーマンスの基準を上げる」という考え方でした。この考えに触れてから、僕の中である問いが浮かびました。「僕たちは、誰かのどんな行為を、どのように褒めているのか?」“褒める”という行為は、実はその人の価値観や、チーム文化を映し出す鏡のようなもの。誰かの努力や変化を、どのタイミングで、どんな言葉で受け止めるか。その選択が、相手の自己認識や未来の行動に大きな影響を与えます。この記事では、ハイパフォーマンスの捉え方から始まり、褒め方の種類、そしてそれがどんな文化をつくっていくのかまでを、丁寧に言葉にしてみたいと思います。ハイパフォーマンスは祝うもの、再現するものではない多くの現場で、「ハイパフォーマンスをどう再現するか」が目標になります。でも実際のところ、ハイパフォーマンスというのは非常に不安定で、コントロールが難しいものです。睡眠、食事、気分、天気、仲間との関係、タイミング──そんな無数の変数が絶妙に噛み合ったときに初めて現れる奇跡的な瞬間。それがハイパフォーマンスです。だからこそ、ハイパフォーマンスは“狙って出すもの”ではなく、“出たら祝うもの”。「今日は宴だ!」とその場で全員で喜ぶような文化が、本来あるべき姿だと思います。この“瞬間の祝福”がチームにもたらすのは、称賛以上のもの。場のエネルギーを高め、互いの存在を肯定し、モチベーションを共有する行為でもあります。時間が経つほどにその価値が薄れてしまうからこそ、その瞬間を逃さず祝うことがとても大事なんです。祝うとは、「今を一緒に味わうこと」。だからこそ、結果にフォーカスするよりも、「その瞬間の存在にありがとうを言う」ことが、実はチームの土台を育てるのかもしれません。低パフォーマンスの改善には「変化」がある一方で、調子が悪かった日というのは、多くの場合、本人が一番よく気づいています。「昨日、寝るのが遅かったな」「朝ごはん、抜いちゃったな」「試合前に不安が強かった」こういった日常の変数に目を向け、そこから学びを得て、少しでも行動を変えていく。その積み重ねこそが、パフォーマンスの“底上げ”につながります。たとえば、以前より10分早く寝るようになった。試合前のルーティンを見直した。仲間とのコミュニケーションを意識するようになった。──こうした“些細だけど確実な変化”は、ハイパフォーマンスよりも遥かにコントロール可能で、再現性がある。コーチや支援者の役割は、こうした変化を見逃さずに「気づいているよ」と伝えること。それが相手の中に、「変われる自分」を育てていくんだと思います。結果ではなく「変化」や「プロセス」を褒めるここで大切になってくるのが、「何を褒めるか?」という視点です。多くの場面で、結果や成果が注目されがちです。100点を取った、試合に勝った、売上が伸びた──もちろんそれも称賛に値します。でも、それだけを褒めてしまうと、「結果を出さなければ価値がない」と思い込んでしまうリスクもある。僕が注目したいのは、結果を生み出すまでのプロセスや変化そのものです。「前はあきらめていた場面で、今回は踏みとどまったよね」「自分で振り返って、準備の仕方を変えてたよね」「以前は感情的になっていたけど、今回は冷静だったね」このように、再現可能なプロセスや、以前との違いを丁寧に承認すること。それが、“成長を感じられる褒め方”につながります。そして何より、「気づいてくれていた」という実感が、その人にとっての安心感と、自信の種になります。「祝う褒め」と「気づく褒め」の二本柱褒めるという行為には、大きく2つの軸があると僕は思います。一つは「瞬間的な祝福(Celebration)」ハイパフォーマンスが出たときに、「よくやった!」「今の最高だったね!」と全力で称えること。これは、その場のテンションや勢いをエネルギーに変え、チーム全体の熱量を上げる行為です。祝福は、言ってしまえば“チームの拍手”のようなもの。誰かの良い瞬間を、みんなで称え合う。それが文化になれば、「誰かの成功」が「全体の喜び」になるんですよね。もう一つは「プロセスの承認(Recognition)」日常の中で見過ごされがちな小さな変化、努力、思考の深まりに気づいて、言葉をかけること。これは静かな応援であり、根を張るような支援です。「最近、話すときの目線が変わってきたね」「以前は質問に答えられなかったけど、今日はちゃんと伝えてた」そうした気づきの言葉は、「あなたを見てるよ」「あなたの変化をちゃんと受け取ってるよ」というメッセージになります。振り返りの場でこそ、変化を見逃さない“瞬間の祝福”は盛り上がりの中で自然に生まれることが多いですが、振り返りの場こそが、「気づく褒め」の本領発揮のタイミングです。振り返りは、ただの反省会ではありません。「何がよかったか」「どこが変わったか」を丁寧に拾い上げることで、次の行動の土台になります。そこで重要なのが、“結果の有無”よりも、“自分の変化に気づけたか”を一緒に確認していくこと。「今回は点数が低かったけど、前より質問にちゃんと答えてたね」「この前は声が小さかったけど、今日は最初にしっかり挨拶できてた」このように、小さな“違い”を発見し、それを伝える。これが振り返りにおける“本当の意味での褒め”だと思います。「褒める」は文化のデザインである最後に伝えたいのは、褒めるという行為がチーム文化の設計そのものであるということです。私たちが何を見て、何を評価し、どんな言葉をかけるか。その選択一つひとつが、その場にいる人たちの価値観を形づくっていきます。結果だけを褒める文化では、挑戦が怖くなり、失敗を避けるようになります。でも変化やプロセスを大事にする文化では、挑戦が称賛され、成長が当たり前になります。だからこそ、「褒める」を単なるリアクションではなく、意図的な文化づくりの一部として捉えたい。祝う瞬間を逃さないこと。変化に気づき、言葉にすること。この両方がそろったとき、チームはきっと、強くて優しい場所になっていくのだと思います。今日も誰かの“変化”を見つける目を持っていたい。それが、小さな成長を積み重ねる一歩になると信じています。