こんにちは、おぐりんです。ヘンリー・フォードの言葉として知られる有名なフレーズがあります。“If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses.”人々に望みを聞いたら、もっと速い馬と言っただろう。この言葉が実際にフォード本人の発言かどうかは定かではありません。けれど、この一文が示す本質──「観察ではなく洞察で未来をつくる」という考え方には、深く共感します。なぜなら、ここには“イノベーションとは何か”という根源的な問いが隠れているからです。未来をつくる人たちは、常に「人が気づいていないこと」に光を当てています。観察が過去を写す行為だとすれば、洞察は未来を予感する行為。そこにこそ創造の源泉があります。顕在ニーズからは、イノベーションは生まれない多くの企業はアンケートやヒアリングを重ねて、ユーザーの“声”を拾います。もちろんそれは大切なプロセスです。ですが、そこで語られるのは多くの場合、「今ある不便をどう解決したいか」という顕在ニーズです。顕在ニーズは改善には役立ちますが、飛躍にはつながりません。顕在ニーズの延長線上には、最適化はあっても革新はない。たとえばガラケー時代に「もっと速く打てる携帯が欲しい」と多くの人が答えたとしても、iPhoneのようなプロダクトは生まれなかったでしょう。なぜなら、人は自分の知っている世界の中でしか不便を語れないからです。もしスティーブ・ジョブズが「ユーザーの要望」を忠実に聞いていたら、彼はきっと“より軽い携帯電話”をつくって終わっていたかもしれません。けれど彼は、人がまだ言葉にできない“理想の体験”を見抜いていました。それこそが洞察の力です。顕在ニーズを掘り下げるのではなく、そこに潜む感情や価値観を見ようとする姿勢が、ビジネスを次の段階へと導きます。「不便」を掘るのではなく、「なぜ不便と感じるのか」を問う僕がよく考えるのは、観察よりも問いの立て方です。たとえば、カビ取り剤のような製品を考えてみましょう。ユーザーに聞けば、「カビ掃除が大変」「もっとよく落ちる洗剤が欲しい」と答えるかもしれません。けれど、それを鵜呑みにしても、できあがるのは“より強力なカビ取り剤”です。でも、もう一歩深く掘ってみると、実は本音は「掃除したくない」だったりします。「じゃあ掃除そのものを減らす方法はないか?」──その問いから生まれたのが、防カビくんのような“掃除しなくて済む”発想です。ここにこそ洞察の力がある。これはマーケティングだけでなく、教育や組織づくり、さらには人生の選択にも通じる視点だと思います。洞察とは、単に人の行動を見て推測することではなく、その背後にある“人間らしい矛盾”を理解しようとする姿勢でもあります。人は便利を求めながら、時に不便に価値を感じる。早さを望みながら、丁寧さを愛する。そうした相反する欲求の中にこそ、未来のアイデアが潜んでいるのです。洞察とは、「見抜く」ことではなく「感じ取る」こと洞察というと、論理的に分析して結論を導くイメージがあるかもしれません。でも実際には、もっと感覚的で、人間的な営みだと思っています。データやアンケートを通して見えるのは、あくまで“行動の結果”。そこから「なぜこの人はこう感じたのか」「本当はどうありたいのか」を感じ取ろうとする姿勢が、洞察です。数字の裏にある物語を読み取ることが、真の理解につながるのだと思います。たとえば、誰かが「使いにくい」と感じているサービスに対して、「UIを改善しよう」と考えるのは観察です。でも洞察は、「なぜ使いにくいと感じるのか」「どんな気持ちでそれを使っているのか」を探るところから始まります。そこにこそ、感情を動かすデザインのヒントがあるのです。問いを立て続けることが、洞察を生む洞察は、1回の調査や分析で得られるものではありません。「なぜこの人は不便だと言うんだろう?」「なぜそれを面倒だと感じるんだろう?」「本当にこの課題を解決したいと思っているのだろうか?」そうした問いを立て続けることで、ようやく“言葉にならない欲求”に近づけます。僕自身もプロダクト開発の現場で、アンケートを「答えを得るため」ではなく「問いを見つけるため」に使うようにしています。問いを立てることでしか、人の本音にはたどり着けないのです。観察とは、“見たままを記録する”こと。洞察とは、“見えない背景を感じ取る”こと。そして、その違いがプロダクトの未来を決定づけます。イノベーションを生むのは、いつだって後者です。未来をデザインする人は、「問いを持ち続ける人」顕在ニーズを拾うことは、今を良くするために大切な営みです。けれど、未来を変えるのは、まだ言葉になっていない願いを掘り起こすこと。そのためには、観察ではなく洞察が必要です。未来をデザインするとは、答えを出すことではなく、問いを持ち続けること。問いを立てるという行為は、常に現状への違和感から生まれます。だからこそ、違和感を恐れない人、わからないを楽しめる人が、次の時代を切り拓くのだと思います。観察を超え、洞察へ。データを超え、感情へ。そこに、人間らしい創造の余白がある。あなたは、今どんな問いを持っていますか?そしてその問いは、どんな未来を見つめていますか?