こんにちは、おぐりんです。エドワード・デ・ボノの言葉に、こんな一節があります。"You cannot dig a hole in a different place by digging the same hole deeper."同じ穴を深く掘っても、別の場所にはたどり着けない。これは「発想の水平移動」という考え方を象徴する一文です。私たちはつい、今ある問題を“より深く掘る”ことで解決しようとします。けれど、どんなに深く掘っても、それは同じ地層の中。新しい景色には出会えません。むしろ、掘れば掘るほど視界は狭まり、光が届かなくなっていくような感覚すら覚えることがあります。だからこそ必要なのが、「深掘り」ではなく「移動」──発想を横にずらすということなのです。水平に動くという行為は、逃げではなく再構築。自分の思考を“別の文脈”に置き直してみる勇気です。発想を縦ではなく横に動かすデ・ボノが提唱する水平思考には、いくつかのステップがあります。簡単に言えば、前提を疑う概念を抜き出す新しい視点に飛び込む常識の仮定を“合図”にするという流れです。これは単なる「アイデア発想法」ではなく、“思考の姿勢”を変える哲学でもあります。たとえば、アイデア会議でよく言われる「まず否定しない」というルール。これも実は水平思考の一部なんです。もし誰かが「もし○○だったら?」と仮定を置いたときに、「いや、それは難しいでしょ」と返してしまうと、前提を疑う余地がなくなります。つまり、発想の横移動が止まってしまうんですね。逆に、「それおもしろいね」「もし本当にそうだったらどうなる?」と広げていくと、話の地図がどんどん拡張していきます。水平思考の目的は、“別の角度から真実を見に行くこと”。それは、正しい答えを求めることとは少し違います。いったん“正解”という土台から離れ、別の視点を通して世界を見直すことなのです。発散と収束の“時間軸マネジメント”私はこの考え方を、時間軸のマネジメントとしても大事にしています。アイデアのプロセスには「発散」と「収束」という2つのフェーズがあります。発散のときは、とにかく“掘る場所を増やす”こと。どんな突飛な案でも、一度は許してあげる。収束のときに初めて、“どの穴を深く掘るか”を選べばいい。この切り替えを誤ると、せっかくの創造が自滅してしまいます。発散のタイミングで否定が入ると、まだ存在しない新しい可能性が摘まれてしまう。逆に、収束のタイミングで否定を恐れていては、決断ができない。たとえばチームでのブレインストーミングでも、発散の場では“ありえない発想”を歓迎する文化が重要です。「非現実的だから面白い」という空気があると、人は自由に思考を広げられる。そのあとに訪れる収束フェーズで、「現実的にはどれが実行可能か」を冷静に選べばいい。この切り替えを意識するだけで、創造の質は大きく変わります。「今は掘るときか、移動するときか」。この問いを持つことが、創造のバランスを保つ一番の鍵だと感じます。“掘る場所”を変える勇気深く掘る努力は、もちろん大切です。でも、いつのまにか同じ地層の中でぐるぐる回っていないか。ときには思い切って、スコップを置いて移動する勇気も必要です。掘ることそのものに目的を見失ってしまうと、もはや創造ではなく“作業”になってしまう。私自身、何かに行き詰まったときは、「いま、この前提は本当に正しいのか?」と問い直します。たとえば、企画や文章を書くときに、「これはこうあるべきだ」と思い込んでいる枠を一度外す。「それを逆にしてみたら?」「それをやらなかったら?」と問いかけることで、思考が一気に自由になります。場所を変えると、空気の匂いが変わるように、思考の景色も変わる。すると、新しい問いが生まれ、次の行動が見えてくるのです。深く掘るほど真理に近づくようでいて、実は視野を狭めてしまうこともある。だからこそ、発想を横にずらす。そこに“違う可能性”が眠っているのだと思います。そして、この“移動の勇気”は、思考に限らず人生にも通じます。キャリア、関係性、環境──同じ場所で努力を続けることは尊い。でも、それが自分を狭めていると気づいたときには、少しだけ横に動く選択をしてみてもいい。視点を変えることは、挑戦であり、再出発でもあります。まとめ:違う場所に行くということ「同じ穴を掘り続けても、別の場所にはたどり着けない。」この言葉は、思考だけでなく、生き方にも通じる気がします。努力を重ねることと、視点を変えること。そのどちらもが、前に進むためには欠かせません。深く掘ることが悪いのではなく、掘りながらも「ここに光はあるか?」と自分に問いかけることが大切なんです。次に行き詰まったとき、少しだけスコップを横に動かしてみましょう。そこから見える世界が、あなたの次の発想を待っているかもしれません。そしてその一歩が、これまでとはまったく違う景色への扉になるのです。